無理な要求を聞いてもらう方法
仕事を進める上で、部下や取引先に対して、多少無理のあるスケジュールや成績を求めなければならないときがあるものです。
そんなときは、最初に難しい要求をして徐々にレベルを下げることで相手に断られにくくするテクニックが有効です。また、理由をはっきり述べることも非常に効果が高いことが知られています。
要は相手が受け入れやすい土台をこちらがしっかり作ってあげることが大切なのです。
はじめは難しい要求を、徐々にかんたんにして錯覚させる
相手に頼みごとや要求を受け入れてもらうテクニックのひとつに、ドア・イン・ザ・フェイスがあります。
最初に難しい要求をして、相手に断られてからレベルを下げた妥協案を提示する方法です。
たとえば、部下に対してプレゼン用の資料を1週間でまとめてほしいときに、最初はわざと「明後日までに仕上げてほしい」と頼みます。
部下が「忙しいので無理です」と言ってきたら、「じゃあ1週間ならどう?」と提示するのです。
すると相手は、たとえそれが1週間でも厳しいとしても、勝手に最初に提示された条件と比較してしまい、「かなりマシだ」と感じます。
またこのやり取りには、返報性の原理というものがはたらき、相手は「向こうが譲歩してくれたんだから、自分も多少無理をしても応えなければ」と思ってくれるようになります。
このとき、いかにも「私はあなたの要望を汲んで妥協案を探った結果こうなった」という態度をはっきりと示すことが重要です。多少の演技力が必要になりますが、それほど難しいことではないでしょう。
理由を言うだけで、相手はそれがもっともらしいと感じてしまう
もうひとつ、頼みごとをうまく引き受けてもらえるやり方として、「理由を伝える」というのも有効です。
これは、カチッサー効果と呼ばれるもので、その理由に正当性も意味もないようなものでも、「理由がある」というだけで承諾してもらいやすくなるのです。
資料をすぐに仕上げてほしいとき、
×「この資料を急いで仕上げてほしい」
◯「この資料はすぐに先方に見せなければいけないから、急いで仕上げほしい」
すでに誰が使っているコピー機を使わせてもらいたいとき、
×「2枚だけコピーを取らせていただけませんか」
◯「2枚だけコピーを取らなければいけないので、使わせていただけませんか」
たったこれだけの違いですが、後者のほうが受け入れてもらいやすくなります。相手が勝手に想像を膨らませて行動してくれるのです。
ドア・イン・ザ・フェイスの使いどころ
値引き商品を売りたいとき
商品やサービスをとにかく売りたいと思っているなら、このテクニックはとても有効です。
「今ならなんと!30%引き!」とか「先着20名だけの特別価格で半額!」などという謳い文句はよく目にしますが、実際は最初から割引された値段であることがほとんどです。にも関わらずお客さんは「割引してくれるなら買おうかな」と思ってしまう。
これが心理的な効果のすごさです。お客さんは一度少しでも買う気になると、「ちょうど買い替えの時期だから」と理由をつけてみたり「こんなにお買い得な機会はもうないかも」などと、勝手に色々考えてどんどん買う方向へ進んでいきます。
ただし、あまりにも相場からかけ離れた金額をふっかけると、効果は期待できません。検討しようかな、と思わせる範囲に留めるのがコツです。「特別に値引きしてあげるのですよ」という印象づけましょう。
逆に自分が買う側にまわったときは、このテクニックにだまされないように注意しなければなりません。
好きな人をデートに誘いたいとき
要求レベルを下げていく方法は、恋愛にも使うことができます。
付き合いたい、デートをしたい、何らかの提案をするなら、いっそのことプロポーズからスタートするという作戦です。
突然プロポーズをされたら、当然相手はこちらのことを「まだよく知らないから」と断るでしょう(それ以前の問題である可能性もありますが…)。
そうしたら、「じゃあお互いを知るために食事でも、お茶をするだけでもいい」と誘ってみるのです。一度要求を断っているという事実があるので、相手は後ろめたさを感じており、控えめな要求なら応えなければという気持ちになっています。
最終的な要求が現実的で控えめなものであるならば、最初の要求は難し過ぎるくらいのほうが良いというのもポイントです。
自分で自分をだます
ドア・イン・ザ・フェイスは自分自身を行動させるときにも応用可能です。
たとえば、「今日は台所の掃除を徹底的にやろう」と目標を立てます。はっきりと自分で認識することが大切です。
しかしかなり時間がかかりそうだと想像すると、途端にやる気がなくなってしまいます。これを「せめて、たまった洗い物だけでも片付けよう」と目標を下げれば、重い腰も動くようになります。
実際にやらなければいけないことは、「洗い物を済ませること」です。「台所を完璧に掃除すること」ではありません。
人間は不思議なもので、少し動くとやる気が出てきます。やる気は後で動くのが先なのです。洗い物を済ませた頃にはやる気も出てきて、台所の掃除も少しは手をつけられるでしょう。
相手に無理なお願いをするときのポイント
- はじめに難しい要求をしておき断られたらレベルを下げていく
- 要求は「理由」をつけるだけで、相手は受け入れやすくなる
- あまりにも難しい要求をすると、話を聞いてもらえないので注意
- 「特別に譲歩している」という態度をはっきりと示す